専門業務型裁量労働制適用事業所への調査について
2018.09去る6月29日に働き方改革関連法が成立しましたが、政府が目指した専門業務型裁量労働制(以下「裁量労働制」と略す)の適用範囲の拡大については、法案の根拠となる労働時間等のデータがあまりにもずさんであったことが問題となり、働き方関連法案から裁量労働制の適用拡大を削除せざるを得なくなりました。政府は、今後、適用対象業務を拡大すべく準備を進め、その一環として労働基準監督が裁量労働制を適用している企業に対し調査を始めました。
今回は、裁量労働制の内容をおさらいし、その調査の目的と内容について解説します。
「専門業務型裁量労働制」とは
「専門業務型裁量労働制」は、労基法第38条の3に定められた労働時間管理の一つで、時間で働くことがなじまず業務遂行の手段や方法、時間配分を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるとした法定の19の業務の中から労使協定でその対象となる業務及び労働者を当該業務につかせた場合、会社は労働時間に関する指示・管理をしないため、あらかじめ労働したものとみなすみなし労働時間を定め、やってもやらなくても毎日、その時間労働したものとみなす制度です。
対象業務は19業種
裁量労働制の適用対象となる業務は、「新商品もしくは新技術の研究開発又は人文科学もしくは自然科学に関する研究業」、「情報処理システムの分析、設計の業務」、「新聞・出版や放送番組の制作のための取材もしくは編集業務」、「衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザイン業務」、「コピーライター業務」、「インテリアコーディネーター業務」、「システムコンサルタント業務」、「ゲームソフトの開発業務」、「証券アナリスト業務」など、時間で業務を遂行することがなじまない19種の業務です。
専門業務型裁量労働制の問題点
裁量労働制の大きな問題点の一つは、国会でも野党から指摘を受けて通り、どれだけの時間労働しても労使協定で定めた時間労働したことにみなす制度のため、長時間労働の温床となってしまうことです。残業代も労使協定で定めたみなし残業時間分を支払えば、それを超えて長時間残業しても追加で残業代を支払う必要がないため、みなし労働時間と実際の労働時間に大きな乖離が生じ、実質的には長時間のサービス残業をさせることが可能な制度と考えて運用している企業があることが問題となっています。
労基署の調査の目的
労基署の専門業務型裁量労働制適用企業への調査の主な目的は次の通りです。
- 専門業務型裁量労働制の適用業種拡大のための実態把握、データ収集のため
- 問題点で挙げた長時間労働、協定時間とみなし労働時間の乖離による残業代未払いなどの摘発のため
労基署の調査内容とポイント
- 会社の事業の詳細の確認(裁量労働制適用企業の業態傾向、労働者の勤務実態の確認)
- 裁量労働制適用労働者の業務の具体的な内容の確認(法定19業種に該当する業務か、実態として業務の遂行手段や方法、時間配分を労働者の裁量に委ねているか、細かな業務指示や時間指示をしていないか等)
- 労使協定に定めるみなし労働時間決定の根拠及び妥当性
- 裁量労働制適用者の労働時間の実態把握の有無(実際何時間労働しているか記録・把握をしているか)
- 労使協定で定めたみなし労働時間と実際の労働時間に乖離はないか、長時間サービス残業となっていないか
- みなし労働時間と実労働時間との乖離の是正についての対策(長時間労働(80H/月以上)削減、健康障害防止策、産業医・衛生管理者等の選任、相談・クレーム窓口等の対応)
上記、調査のポイントを踏まえ、裁量労働制を適用している企業は、早急に制度の見直しを行い、自主的な是正を行う必要があります。