副業・兼業者の労災適用について(改正労災保険法)
2020.11副業・兼業を認めている企業は15%程度ではありますが、多様な働き方を選択し複数の企業や事業場で就業するパートタイマーやアルバイトなどは増えています。またこのコロナ禍で人件費削減の一環として副業・兼業を奨励する大企業も増えてきています。国が示す働き方改革でも、労働者の健康確保に留意しつつ副業・兼業の普及を促進する方針が打ち出されており、複数の事業所(企業)で働く労働者の雇用保険、社会保険の公平なあり方、労働時間管理や健康管理、労災保険給付のあり方などが検討されているところです。今回は複数の事業所で働く労働者に対する労災給付の見直しについて解説します。
労災保険法の大きな改正点
(1)複数事業所の就労者の労災認定基準の見直し
(2)複数事業所に就労する労働者の休業補償等の給付基礎日額の算定方法の見直し
(1)の労災認定基準は、具体的にどのように変わるのか?
例えば、X社とY社の複数の企業にパートで就業している労働者Aがいます。X社での労働時間が週35時間、Y社での労働時間が週30時間であるAがX社で就業中に心筋梗塞を発症し入院しました。
- 今までの労災認定では、
このケースでAはX社での労働のみを個別に評価され認定の判断がなされていました。X社での労働時間が法定労働時間内の週35時間であるためX社での長時間の過重労働はなく、業務起因性が認められず労災の認定が出ませんでした。
- 今後の労災認定では、
Aを使用するそれぞれの事業場における業務上の負荷のみでは業務と疾病等の間に因果関係が認められない場合にAを使用するすべての事業場における負荷を総合的に評価し労災認定を行うこととなりました。
X社での労働のみでは、労働時間も法定内でありますが、Y社での労働も含め総合的に評価すると毎週週65時間の労働で月にすると260時間の総労働時間となり、毎月約100時間の残業をしていることになります。これによりAはX社、Y社両方の労働では長時間労働の状態にあり総合的に見て過重労働と心筋梗塞発症との間に相当の因果関係があると認められ労災の認定がされることになります。
このようなケースが新たに「複数業務要因災害」として、労災給付の対象となります。主には、「脳・心臓疾患、精神障害」が対象になると想定されています。
(2)の休業補償給付等の給付基礎日額は、具体的にどのように変わるのか?
今までは労災の認定基準同様、個々の事業場での賃金のみで給付基礎日額を算定していました。今回のケースでは災害発生事業場であるX社の賃金のみでの算定でしたが、改正後は、X社、Y社双方から受ける賃金が算定の基礎となります。ただし、労働基準法上の災害補償の義務は、X社がY社で支払われる賃金までを保証の対象とすることは、X社の使用者責任を著しく拡大させるものであることから、その責任は負わないものとすることになります。
複数事業場間の移動の取扱いは?
AがX社の業務を終え、Y社に移動は「通勤」とみなし、移動中に起きた事故等は、「通期災害」として扱います。このケースでも給付基礎日額は、それぞれの事業場での賃金を合算し算定します。
労災保険料のメリット率の扱いは?
一定の規模の企業で労災給付と保険料の収支率により労災保険料のメリット制が適用される場合の取扱いは、「複数業務要因災害」においてはいずれの事業場もメリット収支率の算定基礎とはなりません。
なお、労災申請の様式については、X社、Y社両方の事業場における就業状況の記載が必要になります。