社会保険労務士法人 トレイン

人事・労務便り
人事・労務のポイント

テレワーク定着での人事・労務管理

2020.9

定着に時間がかかるであろうと思われていた働き方改革が、新型コロナの影響で否応なく急速に進行しています。休業、時差出勤に始まりテレワークの定着により社員のマネジメントや評価制度など企業の人事・労務管理は大きな転換期を迎えました。今回は、テレワーク定着に伴う人事・労務管理の課題を洗出します。

テレワーク導入で浮き彫りになった課題

1.テレワーク実施に関する内閣府調査

テレワーク実施企業は、全国で1/3の企業、東京都では5割超でした。そのうち「業務の効率が上がった」との回答が9.7%、「変わらない」が35.6%、「低下した」が47.7%でした。

2.テレワークにおける労働時間管理

テレワークでの厳密な労働時間管理を行うには、グループウェアや勤怠管理アプリの導入・整備なども必要になり、それを管理する管理職の高い意識付けも必要です。通勤や無駄な移動時間を省き、効率良く働くことで残業等減らすことを目的の一つとしたテレワークであるのに、労働時間管理の難しさから通常勤務よりも残業が増え、また業務のオン・オフが曖昧になり深夜労働が増えるなどの問題も生じています。

3.みなし労働時間制の問題

テレワーク導入にあたり、事業場外のみなし労働時間制を適用する企業は少なくありません。一見経営側からすると合理的な制度ではありますが、業務の遂行方法や時間配分を社員に委ねるため業務のマネジメントがおろそかになり、社員をほったらかし状態にしてしまう危険があります。みなし労働時間制とは言え社員への業務のタスクの振り分けやその進捗管理をしっかり行う必要があり、この辺りの可否が前述のアンケート結果に反映されていると思われます。そのためみなし労働ではなく、労働時間管理を上司がしっかり行い、部下のマネジメントを利かせようと考える企業も少なくありません。

4.スーパーフレックスタイム制という考え方

テレワークにあたり、フレックスタイム制を導入するケースも多いです。労働時間管理を簡易にするために始業。終業時刻、場合によっては勤務日数にもこだわらず、対象期間の基準時間(所定労働時間)労働すれば良しとする考え方がスーパーフレックスタイム制です。究極の働き方改革とも言えますが、必然的に社員の評価は成果、業績に拠ることになり、それに対応した評価制度が必要になります

5.情報共有やコミュニケーション

テレワークでは、労働時間管理や業務タスクの管理を含め、上司と部下、同僚同士がいかにコミュニケーションを取るかが重要です。業務の進捗や情報共有には、Zoom、Teams等のweb会議やクラウドによる各種サービスの活用が必須となります。社内のコミュニケーションはもとより、顧客のフォローや情報収集、教育訓練などのスキルアップもWEBで行える環境作りが求められます。

6.テレワークによる新たなハラスメント

テレワークでは、上司のマメなマネジメントやコミュニケーションが重要な反面、テレワークだからこその新手のハラスメントが問題にもなっています。上司からの時間帯や休日も問わずのメールや電話による連絡や業務指示、過度な業務ノルマ、Zoom等の使用によるプライベートへの干渉などがハラスメント被害として相談が寄せられています。会社としては、管理職への注意喚起が必要です。

7.テレワーク社員とテレワーク出来ない社員の不公平感の解消

テレワークが定着する一方で、現業などテレワークが困難な職務に就く社員への配慮も必要になります。コロナ禍において感染の危険性や働き方改革の進行度合いにおいて、テレワーク適用者に対し、一定の不公平感が生まれるのは必然です。輪番による時差出勤や休暇を増やすなどの他、危険手当や現場手当等の支給など給与面における処遇UPでの均衡をとるなどの対応が必要でしょう。

8.パート・アルバイトや派遣社員の取扱い

パート・アルバイトなど正社員の指示により補助的な業務を行う社員などはテレワーク対応が難しく、出勤をさせるにしても指示を出す正社員がテレワークをする中、指示の出し方や業務の管理、チェックの方法についての見直しが迫られます。有期雇用のケースでは、契約更新はせず雇止め行うことでのトラブルの増加も予想されます。派遣社員については、派遣法の関係で在宅勤務をさせることが困難であり、派遣会社との協議し、業務内容や遂行方法など見直す必要が出てきます。

9.副業の考え方

テレワークの定着により社員の副業についても検討する必要があります。コロナ前までは、社員の副業については「認めない」、または「許可を受けた場合のみ認める」といった企業が多かったと思います。テレワーク下においては、会社の許可なく内緒で副業を行う社員も出てきます。会社としてどこまで管理し規制するのか、これにも限度があります。副業をフリーにし、会社は社員に対しプロセスではなくより成果を求める人事システムにシフトするケースも大企業で増えているように思います。リーマンショック後も経営難による賃下げの代わりとしてダブルワークを認める企業が増えました。今回は、テレワーク定着によるところが大きいかと思いますが、今後、コロナによる景気悪化の影響がより強くなるとリーマンショックと同様の理由による副業が増えるかもしれません。企業が副業を認める大義名分は、自社業務ではできない経験を副業により経験し、見聞を広め得た知識経験をまた自社業務に活かしてもらうことではありますが、経営が苦しい企業では、副業により社の企業や仕事に魅力を感じ、独立や転職を希望する社員が出てくれば、それはそれで人員整理になると考える経営者も実際に出てきているようです。

企業にとっては、これからが戦い

雇用調整助成金の特例終了  休業をいつまで実施するか

今のところ社員の休業に対する補償としての雇用調整助成金のコロナ特例は、9月末で終了する予定です。10月以降も延長される可能性はありますが、特例が終了すれば休業手当のほぼ満額に近い助成はなくなりますので、休業から雇用維持のための人材の新たな有効活用が求められます。人員の配置換えや組織の見直しが必要になってきます。コロナの影響をもろに受けた企業では、新たな業態への転換や事業の多角化による人材活用も重要な課題となりますし、場合によっては、生き残りのために社員の給与水準の見直し、希望退職の募集、整理解雇、事業の売却などを考えざるを得ないケースも増えてくると思われます。