令和5年主な制度改正
2023.1早いもので今年も残りわずかとなりました。今年最後の今回は、来年行われる労務関連の制度改正と社員の仕事に向かう姿勢と職業能力の再開発(リスキリング)について触れました。
1.月60時間を超える時間外労働の割増賃金の割増率の引き上げ
- 2023年4月1日からの労働分について中小企業において猶予されていました月60時間を超える法定時間外労働について、割増賃金の割増率が1.25倍から1.5倍に引き上げられます。(大企業は2010年に引上げ済です。)
- 月60時間を超える時間外労働には、法定休日に勤務した時間は含みませんが、それ以外の法定内休日については、その労働時間を含めます。
- 60時間超の法定時間外労働については、割増賃金の支給に変えて、有給の休暇(代替休暇)を取得させることが出来ます。
- この制度改正に伴い就業規則(賃金規程)の割増賃金の割増率を改定する必要があります。
- 併せてお使いの勤怠ソフトの設定を変更する必要があります。
2.給与のデジタル(電子マネー)支払いが可能となります
- 今まで賃金支払方法は、通貨のほか労働者の同意を得て、銀行預金口座または証券会社総合口座への振込みが認められていました。
- 昨今のキャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化を鑑み、厚生労働省は2023年4月から次の7つの要件を満たす資金移動業者(いわゆる〇〇ペイなど)の口座への賃金支払いを認める省令の改正を発表しました。
(指定の要件)
- (1)
- 破産等により資金移動業者の債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること。
- (2)
- 口座残高上限額を100万円以下に設定又は100万円を超えた場合でも速やかに100万円 以下にするための措置を講じていること。
- (3)
- 労働者に対して負担する債務について、当該労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により当該労働者に損失が生じたときに、当該損失を補償する仕組みを有していること。
- (4)
- 最後に口座残高が変動した日から少なくとも10年は口座残高が有効であること。
- (5)
- 現金自動支払機(ATM)を利用すること等により口座への資金移動に係る額(1円単位)の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回は手数料を負担することなく受取ができること。また、口座への資金移動が1円単位でできること。
- (6)
- 賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を 有すること。
- (7)
- (1)~(6)のほか、賃金の支払に関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。
- 企業が賃金のデジタル払いを行うためには、事業場の過半数代表者又は過半数労働組合と対象労 働者の範囲、取扱い指定資金移動事業者の範囲などについて労使協定を締結し、その上で従業員個別に同意書(指定の様式あり)をとる必要があります。
- 厚生労働大臣の指定を受けようとする資金移動事業者は、同年4月1日以降、指定を受けるための申請を行い、厚労大臣が指定します。
社員の「リスキリング」を考える
とある日の当社での私と勤続6年で社労士資格を有する社員Aとの会話です。
- 私:
- 「Aさん、それだけどなんでそんなやり方してるの?時間もかかるし間違えもおこるのでは?」
- A:
- 「前任社員からこのように引継いだのでその通りやってます。」
- 私:
- 「Aさん、この前やってもらったこれだけど、ここがおかしくない?」
- A:
- 「そうですね。でも所長の指示がそうでしたので 、指示通りやったんですけど。。。」
何も考えず、私の指示の間違いに気づくこともなく、ただ言われた通り業務を作業として行い中堅社員(期待していた社員なのですが。。。)とのやり取りに愕然としました。
クライアントに対し、働き方改革推進の手伝いする社労士事務所であるからこそ、そこで働く者は、「常に今のやり方が本当に正しいのかを考え、業務を効率化し、生産性を高めてワークライフバランスの実践をしなければ」、と言ってきたつもりでした。
考えない社員は、業務に無駄が多く、また、自分から積極的に情報を収集や知識を習得するということをしないためミスも多いものです。多分、仕事はマンネリ化してつまらないと感じているが、同じ仕事を考えずに繰り返すことは楽で手放したくない、新しい仕事は覚えることも大変であり、自信もないためできればしたくないとの思いもあるのかもしれません。
そこで最近よく耳にする「リスキリング」について考えてみました。「リスキリング」とは、本来の意味は特に中堅以上の社員の企業における業務に必要な知識やスキルに関する職務能力の再開発を比較的短時間で行うことです。今の業務を遂行するスキルプラスアルファのスキルを身に着け、新たな業務への意欲や自分の強みを認識させることで、より業務に対するモチベーションを上げることを目的として行われ、多くの企業がこのリスキリングの必要性を感じ、取組みを始めています。
ただし、単にリスキリングだけではなく、仕事に向かう姿勢や常に考えて業務を行なうこと、そして業務を通じての近い将来の自分自身のキャリアアップのビジョンを明確に思い描くトレーニングも併せて行う必要があるのだと強く感じます。
人が採れない現実、人件費上昇や諸々のコストアップ、DXやAIへの対応、就業形態の多様化、そして売上や利益が飛躍的に伸びるわけでもない現在の社会状況の中、社員一人一人が効率を考え生産性を上げ、今までの1.5倍の業務量とクオリティを今までと同じ労力で実現できるスキルと考える頭を持たなければ、企業は生き残れないことは火を見るほど明らかなのです。何もほどこさなくても自らスキルを高め新しいことにチャレンジし、また自分の職域を広げていこうと思う社員はほんの一握りです。スキルの高い者にどんどん負荷をかけ、ミスの多い社員にはどうしても軽易な業務しか任せられないという負のスパイラルから抜け出さなければなりません。
リスキリングや業務への取り組み方のトレーニングにより社員に自分の強みを再認識させ、社員のキャリアアップビジョンと業務を可能な限りリンクさせ担当業務をアサインする、または社内の適材適所の実現を考えることにより社員のモチベーションのアップを図ると同時に仕事に向き合う姿勢も受身から、自ら常に考え仕事をデザインする社員に変革させなければなりません。年明けからは社員に対し、毎週このトレーニングを実践していこうと思いを新たにした2022年の瀬でした。
1年間ご愛読ありがとうございました。良いお年をお迎えください。