社会保険労務士法人 トレイン

人事・労務便り
人事・労務のポイント

労働法の基本講座第5回「年次有給休暇」その1

2013.08

今回は、年次有給休暇について、労働法および労務管理の実務的な視点から解説します。

1. 年次有給休暇とは?

年次有給休暇(以後、「有休」といいます)とは、簡単に言うと本来、社員が勤務をすべき所定労働日について労務の提供を免除し、有給の休暇を与えるものです。

2. 有休の付与とその日数

(1)有休の付与とその日数

労働基準法(以下「労基法」といいます)第39条では、有休の付与および付与日数について、次のように定められています。
基準内賃金の一部を名称だけ変えたものとみなされますので注意が必要です。

【有休の付与について】

有休は、雇い入れの日から継続勤務し、6か月経過後にその間の出勤率が8割以上の社員に付与します。その後、1年経過ごとに、その間の出勤率が8割以上の社員に新たな有休を付与します。
付与の対象者は正社員に限らず、契約社員や嘱託社員、パートタイマーなども対象になります。

【有休の付与日数】

有休の付与日数は労基法の規定では、次の表のとおりです。
●正社員などフルタイム勤務の社員

勤務年数 6ヶ月
経過
1年6ヶ月
経過
2年6ヶ月
経過
3年6ヶ月
経過
4年6ヶ月
経過
5年6ヶ月
経過
6年6ヶ月以上
経過
付与日数 10日 11日 12日 14円 16円 18円 20日

●パートタイマーなど勤務日数や時間が少ない社員

週所定
労働日数
1年間の所定労働日数 勤続年数
6ヵ月 1年6ヵ月 2年6ヵ月 3年6ヵ月 4年6ヵ月 5年6ヵ月 6年6ヵ月以上
4日 169日~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

(2)有休の付与とその管理

労基法による有休付与については前述の通りですが、この定めを下回らない限り、付与日数や付与の管理方法は会社が任意に定めることができます。
例えば、付与日数を法定よりも多く設定したり、付与日を社員個別の雇入れ日起算で管理するのではなく、有休の管理年度を会社の事業年度に合わせ、その初日を一斉付与日とするなどが考えられます。
この方法は、社員の人数が多くなってきたときに、それぞれ個別の入社日により付与日や付与日数をカウントするよりも付与日が統一されており、付与日基準で勤続年数をチェックするだけよくなり、管理がし易くなるメリットがあります。
ただし、一斉付与により管理する場合、最初の付与日と入社日の間隔次第では、入社6ヶ月経過時に10日付与の法定要件を満たさなくなることがありますので、入社時点で10日付与する、または試用期間明けの3か月経過時に付与するなど、初回の付与についての調整が必要になります。

(3)有休付与の要件となる出勤率8割とは?

【出勤率8割の算定期間は?】

(1)で解説しました通り、有休が付与されるためには、対象となる社員の算定期間中の出勤率が8割以上でなければなりません。
算定期間とは、労基法通りの付与管理を行う会社においては、社員ごとの雇入れから6か月経過するまでの期間、それ以降は、その6か月経過日から1年ごとの期間になります。
また、全社員一斉付与により管理している会社では、雇入れから最初の付与日までの期間、その後は次の付与日までの期間ごとの期間となります。

【出勤率は8割とは?】

出勤率とは、前述の算定期間中の勤務すべき日に8割以上勤務しているかどうかということで、次の方法で計算します。
出勤率=算定期間中の実勤務日数÷算定期間中の本来勤務すべき日数(所定労働日数) ≧ 80%
*出勤率を計算する際、算定期間内に次のような期間があった場合は、その期間は出勤したものとみなしますので注意してください。

※ 休日勤務した日および会社の都合により休業した日(期間)については、出勤率の算定にあたりその日を分母にも分子にも算入しません。

3. 有休の特徴(取得理由と取得時季)

有休は本来、社員が自由に利用できる休暇でその取得時季についても自由です。ですから、社員が有休の取得を会社に申請した際に、会社が申請の理由を申告させたりすることはできません。
ましてや理由によっては、取得を拒んだりすることは完全な法律違反となります。
また、請求された時季に有休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に有休をとらせることができる時季変更権を会社が行使する場合を除き、社員が取得を希望する時季についてとやかく言うことも認められません。
有休は、社員が取りたいときに取りたい理由でとれる休暇です。

4. 有休を取得した日の給与は?

有休は、所定労働日に与えられる有給の休暇です。では取得日の給与はどうなるのでしょうか?労基法では、次のいずれかの方法により計算した給与を支払うよう定めています。
ア) 取得した日の通常の所定労働時間勤務した場合に支払われる給与
イ) 対象労働者の平均賃金
ウ) 健康保険の保険料を決定する標準報酬月額の1/30(この場合は、労使協定締結が必要)
一般的には、ア)による給与を支給しているケースが多いようです。
*ア)を採用する場合の通常の所定労働時間勤務した場合の給与とは、あくまでも社員が有休を取得する日のものをいいます。パートから正社員に転換した社員が、パート時に付与された有休であっても、正社員転換後に取得消化する場合は、社員としての所定労働時間分の給与を支払います。社員からパートに転換した場合の考え方も同様です。