2019年、労働・雇用環境の展望
2019.01平成も残すところ3カ月とちょっと、オリンピックまで1年半となる2019年を目前にして、今国会では今後5年の日本を左右するであろう様々な法案が審議され可決しています。労働環境についても6月の働き方改革法成立に続き、現在の超人出不足状況を打開すべく改正出入国管理・難民認定法(以下、「改正入管法」)が成立しました。
日本もいよいよ2019年4月から多くの外交人を労働力として受け入れることになります。今回は、こういった状況を踏まえ2019年に企業や労働者が置かれる環境を独断で展望します。
働き方改革法がいよいよスタート
2019年4月から働き方改革法の一部が施行されます。目玉は時間外・休日労働時間の上限規制と年次有給休暇の年5日以上取得の義務化です。企業への影響としては次のようなものが考えられます。
- 労働基準監督署による調査、監督の頻度は2018年以上に増えることが予想されます。
- 従来からさほど残業や休日勤務の少ない(概ね時間外が月60時間未満)企業については、法施行による影響はほとんどないと思われます。
- 頻繁に月の残業が80時間を超えたり、休日がほとんどとれていない社員が多い企業では、「残業を減らせ」「早く帰るように」などと掛け声だけで現場任せの対応では改善は困難でしょう。
- クラウド型勤怠ソフト導入による労働時間のリアルタイムでの把握、長時間労働へのアラート発信などを実施する企業も増えていますが、管理面だけの対応ではなかなか残業削減は困難です。
- 「働き方改革」は、管理職はもとより社員全員の意識改革、根本的な仕事のやり方の見直しの機会ととらえる発想が必要となります。
- 長時間労働社員に対する相談窓口や産業医などの面談指導体制は企業にとって必須となります。
働き方改革は、まさに働き方の見直し
残業が構造的に多い企業の話を聴くと大方が「うちの業態は特殊」、「人を増やすか仕事を減らす以外無理」となりますが、突っ込んで業務の内容を聴くと「今時そんなやり方をしているの」、「そのやり方では時間がかかって当たり前だわ」というやり方をしているケースも珍しくありません。まずは今の会社の仕事のやり方が本当に効率的なのか考える必要があります。また、仕事の見直しと並行して大胆な人事制度の見直しも必要かもしれません。優秀な人材を確保、定着させる必要に迫られるなか、働き方改革は避けて通れません。
- 今までのやり方や業界慣習にとらわれず、自社の仕事のやり方に疑問をいだけない企業と、常に新しいやり方を模索できる企業では、今後、残業削減はもとより人材確保の面でも大きな差が出てくるでしょう。
- 夕方に業務が立て込むことが多い職種では、始業・終業時間をスライド可能な勤務制を採用する企業が増えています。
- 土日に勤務することが多い業務においては、土日を休日とする設定をやめ、平日に休日を変更し、または、シフトを組んで毎月の休日を設定するなどの勤務形態の見直しをする企業もあります。
- 年次有給休暇の年5日以上取得については、事前に社員に希望を申告させ取得予定日表を作成し、会社や部門でそれを共有し実際に取得しやすくする、従来の交代制夏休みや特別休暇を年次有給休暇に置き換え、その分有給休暇の付与日数を増やす対応をとるなど思い切った制度変更も必要となるでしょう。
改正入管法による影響
改正入管法が成立しました。中身の細かな制度設計はこれからになりますが、2019年4月より、新しい在留資格で単純労働を主に外国人が日本で就業しやすい状況にするもので、企業の大きな悩みである労働力の確保を含め、人口減少による経済の縮小、高齢者介護などなど諸問題に歯止めをかけようとするものです。措定される労働・雇用環境への影響を考えてみました。
- 特に人手不足に悩まされていた建設、飲食、サービス業においては、労働力の確保が今までより楽になる点では朗報であるかもしれません。
- ただし、今回の改正では、単純労働を外国人でというもので、高度、専門人材の受け入れを拡大するわけではないため、一定の専門性や知識、技術を要する業種での人材不足は、相変わらず解消されないかもしれません。
- 先述しました働き方改革に乗り遅れた企業は、より一層に日本人労働者の確保が困難になり、外国人の労働力に頼らざるを得なくなります。
- 政府は、特にアジアからの労働者の受け入れを念頭に置いていますが、働くことへのモチベーションは、日本人よりはるかに高い彼らはうまく活用できれば大きな戦力になるでしょう。
- その代わり今まで以上に労務管理が煩雑になり、優良な外国人労働者を雇用できる可能性は増えるものの、劣悪な労働者を雇ってしまうリスクはついて回ります。
- 改正入管法成立にあたっては、外国人の労働環境の劣悪な実態が問題になったように外国人だから処遇は低くてもかまわない、という考え方は通用せず、逆に行政の監督は厳しくなることが予想されます。
企業の雇用状況に変化が出るかも
人材確保については、人手不足解消の手段として外国人雇用を選択する企業が増えることは間違いないでしょう。外国人雇用を検討している企業は、「ボーっと生きてきた」日本人労働者にとって代わる人財として外国人活用の人事戦略を持つことが求められます。
- 外国神労働者を安い労働力、安い人手としかとらえられない企業は、長期スパンでの「人財不足」からいつまでたっても脱却できなくなるでしょう。
- 外国人労働力により、人手不足に一定の歯止めがかけられた企業では、人手確保のための処遇向上に歯止めがかかるかもしれません。
- 同一労働同一賃金の法制化は外国人にも適用されます。外国人と日本人の処遇の均衡を保つために、単純労働を中心に日本人労働者の賃金水準の上昇が鈍る可能性も出ると思われます。
- 引く手あまたの雇用状況の中でスキルやキャリアアップのための勉強や努力を怠っていた日本人社員の中には、単受労働職種を中心に外国人との競争に敗れ職を失い、新たな就が見付けられないケースも出てくるでしょう。
- 新卒の就職は堅調で、一定の専門性や知識、技能を必要とする業種では、人材確保が困難な状況が続くと思われます。
目指せ70歳現役社会
高齢者の活用も企業における「人財活用」の上では、重要なテーマとなります。ほぼ破たんした現行年金制度のまま65歳からの年金支給開始を維持することは不可能な状況で、65歳以上の社員の雇用保険加入、年金支給開始年齢の70歳まで段階的引き上げなど政府はじわじわと70歳現役へ向けて布石を打ってきています。近い将来、企業の65歳までの雇用延長義務が70歳まで引き上げられる可能性高いのではないでしょうか?企業としては、法律で決まっているから仕方なく定年年齢の引き上げや、定年再雇用するのではなく、60歳以上の高齢者の活用を真剣に考えるときが来ていると思います。
- 60歳定年を迎えた社員でも、向こう5年から10年は戦力として活用する等の考え方が必要
- 定年再雇用後は、パートと同じとの考えでは70歳までは雇用を継続できない
- 社員個々の特性に応じた働き方の提案が必要になり、勤務時間、従事職務、職責に応じた雇用パターン、雇用形態コースを設定し、本人の希望を聴きながら再雇用後の処遇を決定する制度を設ける考え方も必要でしょう。
一層のハラスメント社会と社会的弱者、マイノリティ、育児・介護社員への配慮
2019年以降は、よりハラスメントに対する企業リスクは増えるものと思われます。外国人雇用に対する差別などにも気を付けなければなりません。
- ハラスメントに対する会社の考え方の発信、啓もうと相談や対応体制の構築は必須となります。
- LGBTや障碍者など社会的弱者やマイノリティに対する企業の対応も注目されています。会社のスタンスを明確決定し、社員に示し啓蒙することが求められます。
- 障害者雇用率(2.2%)を満たさない企業への指導は、2018から厳しくなりました。雇用率の是正が行われない企業は企業名の公表もされますのでご注意ください。
- 育児社員への支援のための制度構築は当然のことながら、これからは家族の介護を行う社員の増加が予想されます。介護と仕事の両立のため会社としてどのような支援ができるのか、会社として真剣に考える時ではないでしょうか。
- そのほか、いろいろな事情により社員の働き方の多様化を認め対応していくのか、優秀な人材の流出を防ぎ人財としていかに活用するのか、これまでの雇用慣習にとらわれないフレキシブルな制度設計が必要となります。
多様な働き方への対応とモバイルワーク・HRテクノロジーの一層の活用
前述した働き方改革として会社の業務を見直し、障害者、育児・介護社員、外国人等々様々な社員のそれぞれの社員と会社の事情を踏まえた多様な働き方を模索する上で、活用できるツールやアプリ、ソフトが続々と表れてきています。このようなツールをうまく活用しないと、経営環境や労働環境をめぐる法改正や業務効率化、人材確保はとても困難です。
- モバイルツールやHRテクノロジーを活用した労務管理と情報共有
- 社員のスマホを利用した作業の効率化
- 労働時間管理と長時間労働防止のシステム作り
まとめ
以上、2019年以降の労働・雇用環境において企業に求められる対応を考えてみました。働き方改革や外国人雇用、高齢者、その他様々な社員の働き方の多様化に対応など、企業に求められるものは、会社の方針決定と社員への発信、方針に副った制度の設計、法令との整合性のチェック、規定の改定、社員への説明など盛り沢山です。何事も法律が変わったので仕方なく対応するのではなく、これを良い機会とし、戦略をもってやあたることが弊社務含め、今後の浮沈に掛ってくると考える次第です。