戦略的な給与体系の見直し(1)(基本給の考え方)
2019.11同一労働同一賃金のスタートに向けて給与制度の相談が増える中で、給与制度、特に給与体系について会社の人事戦略などが十分反映されていないケースをよく見かけます。正社員の基本給や諸手当について、その内容や支給要件、給与額の決め方さえ明確でないのに、同一労働同一賃金における非正規社員の均等待遇、均衡待遇は何なのかを検討することなど不可能です。今回は、基本給の設定にあたり何が重要かを考えます。
1.基本給についての考え方
(1)基本給は、「社員の何に価値を求めるか」によって決定されるべき
基本給は、給与のベースとなるもので、社員の基本的な価値をお金にしたものと言っても過言ではありません。いわば車でいう本体価格です。会社としては社員の価値基準を明確に定め、基本給を決定することが必要です。価値基準とは、その社員の持つ能力や技術なのか、経験なのか、人柄なのか、勤続年数なのか、学歴なのか、従事する職務なのか、負っている責任の重さなのか、といったことです。そもそも労働基準法でいう賃金(給与)とは、「労務の対価として支払うもの」ですので、その原則に基づいて決定されることが望ましいと考えます。
(2)基本給のテーブルを持っていますか?
社員の価値を基本給に反映させると様々な金額になると思います。価値基準を明確にし、算定された価値の軽重に応じて基本給を人事等級ごとに体系立てて一定のピッチの金額表にしたものが基本給テーブルです。車でいう価格表となります。この基本給テーブルがないと、社員の毎年度の基本給の決定や新卒社員や中途社員の基本給決定が非常にファジーなものとなり、思わぬ給与の高騰を招いたり、同じ職務、同じ能力、同じ成果、同じ知識・経験レベルの社員であっても、基本給に差が出てしまったり、プロパー社員と中途社員の給与格差が生ずるなどの問題が起こります。
(3)給与テーブル作成には賃金リサーチは欠かせない
給与テーブルを作成する際には、会社の人事戦略を反映させる必要があります。特に人の確保、定着については各企業で最優先課題となっています。「社員の退職理由の大半が低給与である」、「業界内で人材の取合いが激しく応募はあるが採用できない」、「競合他社に負けない給与水準にし、良い人材を確保したい」、「採用をエージェントからの紹介に頼らざるを得ない」など企業における悩みは様々だと思います。まずは同業種・業界、同一地域内、企業規模別、職種別、年齢別、役職別のなどによる給与水準を十分リサーチし、給与テーブルの金額設定をしなければなりません。
(4)基本給は、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づくもの
基本給は月給制であれば、月の所定労働時間、日給制であれば1日の所定労働時間、時給であれば1時間業務を行うことを前提に設定しますので、当然ノーワーク・ノーペイの原則が適用され、勤務しなければその分の基本給は減額されることが原則となります。
(5)基本給は、人事評価制度に基づき改定されるもの
(1)でも述べましたように基本給は、社員の基本的な価値を金額で表したものです。価値が上がれば基本給も上がりますし、価値が下がれば基本給も下がることになります。そのためにも会社における社員の価値基準を明確にし、一定期間ごとに一人一人査定して適正な値決めをすることが必要になります。この査定作業が人事評価であり、値決めが給与決定になります。それだけに会社の人事戦略にマッチした人事評価制度と評価に基づく適正な給与決定の精度、システムが求められます。
次回は、諸手当と賞与について考えます。