戦略的な給与体系の見直し(3)(会社の実情に則した手当の設定)
2020.1今回は、給与の第3弾として各種手当の設定について考えます。会社が支給する手当には、その支給の必要性、支給対象者、支給基準、支給額などが明確になっている必要があります。会社の実情や人事戦略に則った手当の設定を考えましょう。
各種手当について(その2)
1.基本給を補填する目的で支給する手当
- (1)担当する職務の内容や難易度、重要度、責任の重さに対し支給する手当
社内の職務や業務内容が多岐、多彩にわたり存在し、その担当する職務により内容や難易度、責任の重さや会社業績への貢献度などが大きく異なる場合、一般的に全社員に対し共通の基準で設定されている基本給では不公平感が生じるため、基本給を補填する目的で支給します。
例)職務手当、業務手当、営業手当、エンジニア手当、ドライバー手当、専門業務手当など- (2)本来の職務や業務のほか、プラスアルファで担当する職務や責任に対し支給する手当
一般的に本来の職務や業務のほか、部門のマネジメントやスポット的なプロジェクト業務、主に深夜や休日などに行う特殊業務を担当するなど、基本給では補填しきれない場合に支給します。
例)役職手当、リーダー手当、特殊業務手当、プロジェクト業務手当、夜勤手当、交代勤務手当など- (3)職務遂行能力や特殊な資格、技術に対し支給する手当
一般的に職務や業務において職務遂行能力に大きな差が生じる場合や職務遂行に専門的な能力や資格、技術が必要な場合、それらの職務遂行能力が基本給では補填しきれない場合に支給します。
例)能力手当、資格手当、技術手当、専門職手当など
ポイント
全社員横断的な人事等級の基準等で設定される給与が基本給ですが、社員個別の職務や役職の内容、難易度、職務遂行能力、資格などに応じ、基本給を補填する形で手当を設定すると、職種間における適材適所の人事異動・配置転換や若手の役職抜擢、高齢社員の役職引退などにおいて、その都度基本給をいじることなくフレキシブルな人事が可能になります。
2.人材を確保、定着させる目的で支給する手当
- (1)勤続年数やキャリア年数に対し支給する手当
一般的に社員の離職率が高く、良い人材がいつかない場合や、会社の職務の性質上、勤続年数やキャリアが長ければ比例して職務遂行能力も高くなり貢献度も増す場合などに、勤続年数や同種業務のキャリア年数などに対し手当を支給し、人材の定着やキャリア社員の確保を図ります。
例)勤続手当、キャリア手当、熟練手当など- (2)本来の給与以外に福利厚生や生活支援のために支給する手当
一般的に社員個々のおかれる勤務地や家族状況などに対し、労務の対価としての給与のほか、一定の経済的な支援を目的に支給される手当です。最近では人材確保のため、社員の将来設計の補助的、福利厚生的な手当を支給する企業も増えています。
例)家族手当、住宅手当、単身赴任手当、寒冷地手当、ライフプラン手当(401Kマッチング拠出)、iDeCoプラス(拠出補助)
ポイント
ひところは、年功序列的な考えに基づく勤続手当や家族手当、住宅手当のような本来の職務遂行とは関係のない属人的な要素の手当は廃止する流れでしたが、ここ数年の人手不足による人材の確保、定着という観点から改めて見直されています。入社5年目以内に退職する社員が多い企業では、入社5年までの手当の昇給ピッチを大きく設け、勤続10年以降は手当額が増えないような設計にしたり、ライフプラン手当やiDeCoプラスなどを会社の福利厚生の柱にして積極的に人材確保においてアピールしたり、新たに住宅手当を設定し、地方からの人材採用を積極的に行うなど、各企業が自社の戦略に基づきこれらの手当を活用しています。家族手当や住宅手当は、扶養家族の人数や負担している家賃額に応じた額が支給されることが前提で、残業代算定のベースから除けます。
3.社員に精勤や業務の安全遂行を促すために支給する手当
- (1)勤怠優良社員に対して支給する手当
特に小売や飲食などサービス業や一部製造業などでは、シフト勤務が多く採用され、最低限の人員で業務をまわす中で、社員の突然の遅刻・早退、欠勤は避けなければならず、手当を支給し社員の勤怠に対する意識づけを行います。
例)皆勤手当、精勤手当など- (2)安全・衛生その他会社の業務ルール遵守を実践した社員に支給する手当
建設業や運輸・運送業、製造業などの業種の企業を中心に、業務遂行上、厳格な安全・衛生監理やルールの順守、その他独自の業務ルールの順守が求められる業務において、社員がそれらの業務ルールに則り業務遂行した場合に支給される手当です。
例)安全手当、無事故手当、不着手当、ノークレーム手当、など
ポイント
ある調査機関によると皆勤手当、精勤手当を支給している企業は、調査対象企業の中で2割にも満たないようです。しかし、業種や業界によっては、社員の遅刻・早退や欠勤による代替要員の補充が非常に困難で、欠員が出ることで会社業務に大きな支障が生じるケースがあります。また、特に人の生命にかかわる業務や不特定多数の個人情報を扱う業務、ちょっとしたルールの不徹底が大きなクレームとなり会社の信用を失墜させるなど、会社の業務の特性上、これだけは必ず守ってほしいルールを社員に意識づけるために、ルールの遵守実践を条件に基本給以外に手当を支給することは、とても有効なことだと考えます。
4.社員の実費を弁済する目的で支給する手当
社員が業務を遂行するために実費負担が必要なる場合に、その実費負担を会社が弁済する目的で支給あれる手当です。
例)通勤手当、携帯手当、通信手当、食事手当、出張手当、外勤手当など
ポイント
社員が業務するために必要な実費を弁済する目的に手当ですので、当然、その負担額に応じて手当額が決まることが前提です。業務に関する実費の弁済の範囲をどこまでに設定するかは、会社の人事戦略によります。上記の通勤手当は、残業代の算定のベースから除けます。
以上のとおり、給与の設定にあたっては人事評価に紐づいた基本給の決定は当然のことながら、会社の状況や人事戦略に基づき、各種手当の設定を検討することは非常に重要です。同一労働同一賃金における非正規社員の均等、均衡待遇を考える上でも大きなポイントとなります。
今年も1年間ご愛読ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。