判例で考える定年再雇用後の給与設定
2021.7今回は、定年再雇用後の所謂嘱託社員の処遇について、2018年6月の最高裁判決と2020年10月にありました名古屋地裁判決を比較し、定年再雇用後の給与設定について考えます。
長澤運輸事件 最高裁判決 H30.6.1
定年再雇用されたトラック運転手の嘱託社員3名が、定年前と仕事の内容が全く同じなのに給与を20~24%減額されたのは労働契約法第20条の不合理な労働条件の禁止にあたるとし正社員との給与差額の支払いを求めた事件です。判決は、給与の減額は概ね合理性があるとし社員側の主張を退けました。
定年時と再雇用後の給与の比較
正社員 | 嘱託社員 | 合理性の判断 | |
---|---|---|---|
基本給 | 11.2万〜12.1万円 | 12.5万円 | 合理性あり |
職務手当 | 8.2万円 | なし | 合理性あり |
精勤手当 | 5千円 | なし | 不合理 |
役付手当 | 3,000円、1,500円 | なし | 合理性あり |
住宅手当 | 1万円 | なし | 合理性あり |
家族手当 | 5千円〜 | なし | 合理性あり |
賞与 | 基本給5か月分 | なし | 合理性あり |
名古屋自動車学校事件 名古屋地裁判決 R2.10.28
定年再雇用された自動車教習所の教習員である嘱託社員2名が、定年前と仕事の内容が全く同じなのに給与を45~48.8%減額されたのは労働契約法第20条の不合理な労働条件の禁止にあたるとし正社員との給与差額を支払うよう求めた事件です。判決は、給与の減額は不合理とし会社に625万円の支払いを命じました。
定年時と再雇用後の給与の比較
正社員 | 嘱託社員 | 合理性の判断 | |
---|---|---|---|
基本給 | 一律+功績給 16万~18万円 | その都度、個別に決定 7万~8万円 | 不合理 |
役職手当 | 主任以上に役職に応じて支給 | なし | 合理性あり |
家族手当 | 税法上の扶養家族も人数で支給 | なし | 合理性あり |
皆勤手当 | 1万円 | なし | 不合理 |
敢闘賞 | 5千円 | なし | 不合理 |
賞与 | 年2回基本給をベースに計算 | 正社員の60%以下の一時金 | 不合理 |
上記の二つの判決で基本給と賞与については反対の判決が出ていることから、その違いを踏まえ定年再雇用者 の給与設定を考える必要があります。長澤運輸事件では、定年前と同様の職務、責任であっても退職金の支払 いや年金受給の環境から一定の減額は合理性があると判断されましたが、名古屋自動車学校事件においては、 減額率が40%超でもあり、給与額自体が低額すぎるため不合理という判断がされました。基本給額自体が、定 額に設定された初任給よりも低く、生活保障の観点からも看過しがたいとされた判決では、賃金センサス(賃 金構造基本統計)の同年代の平均賃金にも触れ、社会的な賃金水準との比較が判断の決め手となったことから 定年再雇用後の給与設定には一定の生活水準の維持を考慮することがポイントとなります。その他手当につい ては、両事件とも嘱託社員は不支給となる目的、理由の手当てであるか否かが判断基準とされていますので、 各手当の目的や支給理由付けを十分検討した上での給与設定が必要となります。