問題社員への対応方法(トラブルリスクを最小化する辞めさせ方)
2022.7当方では毎月のように能力不足社員及び勤務態度不良社員(以下「問題社員」に統一)への対応についての相談を多くの企業から頂いております。このような社員は、大企業であれば毎年のように人事異動を命じ、様々な部署をたらい回しお茶を濁したり、窓際に追いやったりすることが可能ですが、中小企業においてギリギリの人数で事業を回しているケースではそうはいきません。そして大方の場合、ご相談いただく段階では、問題発生から相当の時間が経過し、経営者の気持ちは「辞めさせたい」となっています。そしていきなり解雇を通告しユニオンに駆け込まれるトラブルも増えています。今回は問題社員の辞めさせ方を含め、対応について考えます。
1.能力不足社員は、原則的には解雇できない?
日本のメンバーシップ型雇用において、ただ能力が足りないという理由で社員に懲戒処分をしたり、解雇することは非常にハードルが高いと言えます。試用期間中であれば、「雇用の目的が達成できないレベルである」、または「本採用しても将来に向かって改善の見込まれない」というレベルであれば試用期間満了での解雇はあり得るかもしれませんが、試用期間中にきちんと見極めを行わず本採用してしまってからでは、能力不足による解雇は非常に難しいと言えます。
2.キャリア採用や専門職採用の場合はどうか?
即戦力としてキャリア採用や高度な専門性を要する業務に採用した者が、会社の求めるスキルを有していない、または採用時に申告があったスキルレベルと実際とのギャップが大きい場合などは、解雇の可能性を見出せるかもしれませんが、これも試用期間を満了し本採用した後では「なぜそのようなレベルの者を本採用したのか」という話になりますし、会社として他の職務への配置転換等を検討する必要も出てきます。
3.会社の無作為はNGです
能力不足社員にしろ、問題社員にしろ、会社側(特に管理者や経営者)は、「使えない」、「問題がある」「辞めさせたい」と思っているだけで、直接注意や指導などほとんどせず放置しているケースが少なくありません。これらの問題社員に対して思っているだけで何もしないのは会社としてNGです。
4.会社がやるべきことをしたかがポイント
問題社員に対して会社がどれだけやるべき働きかけをし、手を尽くしたかは、スキル向上や問題解決のために行うわけですが、最悪問題社員に辞めていただくにあたり非常に大切なポイントです。適正な教育訓練や指導を施し、または注意・指導、非行については懲戒処分などをきちんと行い会社としてはやるべきことをやった上で、初めて問題社員のスキルが向上しない、ミスが減らない、改善の見込みがないと言えるのです。会社が何も施さず、ただ「使えない」は通用しません。
5.問題が発生したら放置せず注意指導を行う
問題があれば放置せず口頭で構わないので注意します。1回で改善がない場合は、さらに1、2回繰り返します。パワハラにならないよう感情的な叱責ではなく、客観的事実とその問題点を示し具体的にこう改善して欲しいと求めます。また他の社員のいる前での注意指導はできるだけ避けます。冷静かつ客観的な注意指導を行えるという意味では、メールで行うことも有効です。いずれにせよ注意指導のポイントは、非を責めるだけではなく、改善を望むスタンスです。
6.文書による注意指導を必ず行う
口頭による注意指導で改善しない場合、必ず「注意指導書」や「改善指示書」、「警告書」など文書による改善指導を行います。本人に改善の意志はあるがうまく改善できないケースもありますが、口頭での注意指導を軽く考え、またはそもそも改善する意思のない社員も少なくありません。このような社員に事の重大性を認識させる意味でも文書による指導は効果的です。また、文書による注意指導は、問題社員に対し会社が行った施しの記録、エビデンスでもあります。
7.文書に記載する注意指導内容のポイント
6.でも書きましたように文書による改善指導は、(1)事の重大さを認識させる (2)会社側の注意指導等、施し内容のエビデンス (3)指導にも拘わらず問題社員に改善が見られないエビデンスとなります。従いましてこれら効果を発揮する内容の文書を作成し交付しなければなりません。問題社員を早く辞めさせたい一心で、指導内容より文書指導の頻度(乱発)に偏った改善指導を行っているケースが少なくありません。これではかえって辞めさせるための文書交付との印象を問題社員に与え、問題が複雑になってしまいます。記載のポイントとしては、次の点に留意しましょう。
(1)事の重大さを認識させるため
能力不足や問題行為を受け入れない者もいますので、客観的事実と問題点(業務や顧客、他の社員に与える悪影響、会社が被った具体的な損害など)を箇条書き等によりわかりやすく記載します。口頭での注意指導の記録、口頭による注意指導でも改善されないことを示します。そして求める改善の期限を明確に指示します。なお文書は、所属長や上司名ではなく会社の代表者名で交付します。
(2)注意指導の内容は、あくまでも改善を求める
改善のための文書は、単に注意指導した回数のエビデンスではなく、会社として「これだけ改善のための指導を尽くしました」ということのエビデンスでなければなりません。不出来な部分や非行の羅列だけで終わらせず、どのように問題があり、どのようにどのレベルまで改善して欲しいのかを具体的に記載し、改善のために必要なことも明確に示唆してすることが望まれます。
(3)改善が期待できない場合の次の対応に備える
1回で改善が見られない場合、さらに1,2回程度、文書により注意指導を行い文書交付の回数を記載します。この文書による指導で見切りをつけたいときは、今までの改善指導の内容や回数を再度記載するとともに、以降、改善がない場合は雇用の継続が困難であると必ず最後通告を記載します。
8.辞めさせるための手続
改善指導による文書の最後通告に基づき、問題社員に辞めてもらう手続きに入ります。その際はいきなり解雇通告または解雇予告するのではなく、必ず退職勧奨を試みます。退職勧奨とは、「一方的に首にする」のではなく「辞めたらどうだ」と退職を諭し自ら退職の意思表示をさせることです。
9.退職勧奨のポイント
退職勧奨は、あくまでも本人の退職の意思表示を引き出すものです。今までの注意指導の経緯、改善できなかったこと、しなかったことを認識させ、最後通告したことも強調します。そしてこのまま会社に残っても双方良いことがないこと、別のところで再起を図るべきなどと本人を諭します。注意すべきは、何度もしつこく勧奨しないこと、問題社員に対し大勢で退職勧奨を行わないことです。
10.退職勧奨による合意退職のために
勧奨術として退職後の一定の生活補償(給与の2,3か月分程度が一般的)を会社が提案すると問題社員も退職を受け入れやすいのは事実です。問題社員をこの先も抱え込むコストと悪影響を考えると、自ら辞めてくれるなら一定の支出もやむを得なしという考え方です。本人が退職勧奨を受け入れたら必ず退職合意書を取り交わし、退職日や退職勧奨を受けての退職であることやその他の合意内容以外に双方債権債務がないことを明確に記載します。なお、退職勧奨の場合、合意退職ではありますが会社都合退職となります。
11.最後の手段としての普通解雇
退職勧奨がうまくいかない場合は、最後の手段として解雇することになります。解雇日の30日以上前に解雇予告するか、予告期間なしで解雇する場合は、解雇通知を書面でし、即時に平均賃金30日分の解雇予告手当を支払う必要があります。この場合の解雇は、会社都合による普通解雇となります。会社に故意または重過失によりよほど重大な損害を与えた場合などを除き、能力不足での懲戒解雇はまず不可能です。
以上、問題社員の対応は、放置せずタイムリーに手を打ち問題を長引かせずに対応することが肝要です。