社会保険労務士法人 トレイン

人事・労務便り
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物流業の2024年問題

2023.4

「物流業の2024年問題」という言葉をご存知でしょうか。来年4月から自動車運転者の働き方改革の一環として、業界の労働時間等の基準が改定されます。「物流業の2024年問題」とは、自動車運転者の労働時間に新たに上限が課され、また既定の拘束時間の上限時間が短縮されることによる様々な問題の総称です。今月は、トラック業界にある懸念事項と今後の対策の動きについてお伝えします。

トラック運転者に適用される改正内容

長距離運送など業務の特性があり、他業種にはない労働時間等の改善のための特例基準が設けられています。ただ現在も、長時間労働・過重労働が慢性化している状況で、過労死等のうち、脳・心疾患の労災支給決定件数が全業種の中で最も多い業種のため、自動車運転者の労働時間の削減・健康維持がより一層求められ、今回の改正に至っています。一部概要をご紹介します。

※トラック運転者の改善基準です。他の業種とは異なります。

現行 改正後
1年・1か月の拘束時間(※)
(※)始業から就業までの時間で休憩時間も含みます
1か月293時間以内
【例外】労使協定により、次のとおり延長可
1年3,516時間以内の範囲で1か月320時間以内(年6か月まで)
1年:3,300時間以内 年間▲216時間
1か月:284時間以内

【例外】労使協定により、1年:3,400時間以内・ 1か月:310時間以内(年6か月まで)まで延長可(ただし、(1)(2)の努力義務あり)
(1)284時間超は連続3か月まで
(2)1か月の時間外・休日労働時間数が100時間未満
1日の拘束時間 1日原則13時間以内
(上限16時間、15時間超は週2回まで)
13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回までが目安)
1日の休息期間 勤務間インターバル継続8時間以上 継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない
時間外労働の上限 特になし 960時間(休日労働を除く)
(※その他の業種は年720時間です)

改正により予想される懸念

このように上限が設定されることにより、時間外労働が削減され、(1)1日に運ぶことができる荷物の量が減少 (2)トラック事業者の売上・利益の減少 (3)働いた分だけ稼げることに魅力を感じていたドライバーの収入の減少 (4)収入の減少による担い手不足などが懸念事項として挙げられます。

運送会社だけの努力だけでは、見直すことが困難なものがあります。例えば、長時間の荷待ち時間は拘束時間が長時間となる要因の一つです。問題解決のため業務を依頼する側の協力が不可欠です。ITを利用した運行管理を行う企業やドライバーの人材確保のため給与を見直す企業も増えています。これらの対応に伴い、荷物の送料UPは必至となるでしょう。

問題解決のため社会全体で考えるべきこと

規制の改定は、物流業界だけの問題かと思われがちですが、コロナの影響で生活様式も変わりネット通販を利用する回数が増えています。できるだけ再配達とならないように1度で受け取れる時間設定、急ぎではない商品は「即日配達」や「翌日配達」を選択しないというのも、ドライバーの負担軽減につながります。社会全体でできることがあるか考える必要がありそうです。