固定時間外手当とその廃止の仕方
2024.04今回は、コロナ禍以降、相談が増えている固定時間外手当の廃止、及びテレワーク勤務の廃止について2回にわたり解説します。今回は、固定時間外手当についてです。
1.固定時間外手当とは?
固定時間外手当とは、会社が予め社員が行う残業について、一定時間を設定し、その分の時間外手当を毎月固定の手当として定額払いするものです。社員の実際の時間外勤務時間が、手当算出で設定した時間を超えなくても設定時間分の時間外手当を支給し、また実際の残業時間が設定時間を超えた場合は、その超えた時間分について時間外手当を追加支給しなければなりません。基本給等のベースの給与に固定時間外手当を加えた金額が、月の最低保証額となり残業が少ない社員にとっては非常に優遇された制度と言えます。
2.なぜ固定時間外手当制を採用する企業が多いのか?
会社が固定時間外手当制をとるメリットや動機としては、次のようなものが挙げられます。
- (1)
- ある程度毎月の人件費が読める
- (2)
- 毎月の給与計算において残業や休日勤務の割増賃金の計算が簡略化される
- (3)
- 社員に設定した残業時間(会社側が想定する時間)を意識させることで、長時間残業の抑制につながる
- (4)
- ベース給与が安い場合、より給与額を高く見せられる
- (5)
- 年俸制として、またはベース給与に一定の残業代を含んでいるとして明確な割増賃金を支払ってこなかったため、残業代未払いとならないようにグロスの金額をベース給与と固定残業代に明確に内訳した。
※多くの企業が固定時間外手当制を(5)の動機により導入しています。
3.固定時間外手当を廃止すること、または設定時間を変更することは問題ないか?
働き方改革やコロナ禍を経て、テレワークの定着等、業務効率化により残業の実労働時間が減ったことや固定残業代の支給によって、社員のスキルや経験、職務に対する本来の給与設定が複雑になる、はたまた固定残業代制により求職者から残業の多い会社とみられ、採用が思うようにいかなくなるなどの理由で固定時間外手当を廃止または設定時間を減らそうと考える企業が増えてきています。会社側の都合で固定時間外手当制を廃止し、または設定時間を減らすことは可能なのでしょうか?1で触れました通り固定時間外手当をなくし、または設定時間を減らして減額することは社員の給与の最低保証額を減額することになり、基本的には労働条件の不利益変更になりますので、会社が一方的行うことは出来ません。
4.固定時間外手当の廃止方法
単純な廃止や設定時間の引き下げは、すべての社員が、固定残業代分として設定した時間以上の残業を毎月しているようなケース以外、労働条件の不利益変更になりますので対応は、次の3通りになるかと思います。
- (1)
- 固定時間外手当分をベース給与(本給)に上乗せ(ベースアップ)し、最低保証額を維持したまま固定時間外手当を廃止し、以降の残業については、やったらやった分を支給する運用に変更する。
- (2)
- 社員の平均実残業時間を毎年集計し、十分社員と協議の上、合理性を説明した上で実態に基づき固定時間外手当の設定時間を見直すこととし、以降、残業時間削減に努める。
- (3)
- 固定時間外手当廃止の客観的な合理性、必要性を社員に十分説明し可能な限り合意を得て、激変緩和措置として数年かけて固定時間外手当の設定時間を減らしていき最終的に廃止する。
※固定時間外手当を廃止する企業の多くが➀の方法を採用しています。
(1)の場合は、残業代算定基礎である時給単価が上昇しますし、(2)、(3)の場合は、社員の実残業時間が増えるおそれがあります。いずれの場合も実労働時間を抑制、削減する施策を同時に行わなければなりません。